第二章:好意と憎悪は紙一重

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 僕らは寂れた蕎麦屋の看板をくぐり、客のいない店内を見渡した末に一番手近な席に腰を下ろした。  偏屈そうな爺さんに蕎麦を二人前頼み、僕らは雑談を始める。 「あ、妹さんの昼食、作り忘れたわ」 「ああ。あいつ、休日は昼まで熟睡してるからサンドイッチで問題ないよ」 「そう、ならよかったわ」 「それはともかく。甲斐甲斐しく世話焼きするのをやめてくれないか?」 「どんな答えが返ってくるか分かってる癖に」 「まぁ、そう言うと思ってたけどね。じゃあさ、妥協点としてお金を払うのは僕にしてくれないかな? 居心地悪いんだよ、ホント」 「嫌」 「だと言うなら力付くで追い出すけどね」 「………………」  何杯水を飲む気だ、こら。下手なごまかしはやめろ。  と、そうこうしている間に蕎麦が出来上がって、僕と宙は蕎麦をずるずると啜った。そういえば麺類が昨日今日と連続してしまったが、思いの外ここの蕎麦が美味しかったため、次第にそんな考えは頭から追い出されていった。  やがて、僕らは食事を終えると一言も言葉を交わさずに、店を出た。それからも僕らはお互いに口を開くことはなかった。  話さなくても僕の考えは宙に伝わっているだろうよ。 ◇ ◇ ◇  帰りに夕飯の食材を買いにスーパーによることにした。買うものは宙の指示通りに、代金は僕の財布から。  限界近くまで詰め込まれたレジ袋を両手に抱え、隣に宙を連れて再び帰路を進む。  すると 「相沢! ……と、遠峰か」  アンタはホストですか、と尋ねたくなるような髪型をした同級生、タラちゃんが現れた!  苗字を呼ばれた! 僕にこうかはばつぐんだ! 宙も見事なしかめっ面だ! 「あー、相沢に用があるから。お前はどっか行ってくんない?」  あい、わかった。僕は宙を置いてきぼりにして、足早にそこを去ることにする。  待たれよ、と宙に袖を引っ張られたが、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべるタラちゃんが間に割って入り、その手を離させた。  あー、そういやタラちゃんって宙が転校して来た時にナンパしてたっけ、と思い出したのだけれど、どうでもいいやと思考を切断する。  だって、宙個人がどうしようが僕と何の関係がないもの。  あくまで宙とともに過ごそうという考えは、宙が僕の元にいるからだ。  そうでないならそれに越したことはない。僕とともにいれば誰もが不幸に成り得るのだから。
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