第二章:好意と憎悪は紙一重

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 ギシギシと頼もしくない音を立てる階段を上がり、オンボロアパートの行く末を憂いていると、うちのドアの前に見覚えのない男が立っていた。  さらさらの金髪に爽やかな顔立ち、細身ながら引き締まった肉体が特徴の中学生くらいの少年だ。  訝しげに思いながら、おずおずと声を掛けてみる。邪魔だし。 「あの、うちに何か用かな?」  僕の声に気付くと少年は野暮ったげにこちらへと振り向いた。 「ああ、ここのお宅の方ですか。すみません、間違えたみたいです」  予想もしなかった丁寧な対応に少々面食らっているうちに、少年は僕の隣を通り過ぎて行った。  なんだったんだろう?  腑に落ちないが、考え込む前に熱気に根負けして中に入ることに決めた。 「ただい」  ま、と言い終える直前、廊下で蹲る妹を見てギョッとして、言葉を飲み込んでしまった。 「お、おい。何か、あったの……か?」  僕がそう妹に尋ねた途端妹が顔を上げ、ぽろりと涙が零れた。なんの前触れもなく。 「あ、あ、あ……。に、にーちゃん……」 「いったいなにが……」 「う、うぅっ……、ふっ、う、うあああああん」  堰を切ったように涙がポロポロと落ちて、廊下に小さな水溜まりを作った。  僕は初めて見せる妹の涙に呆然としながらも、怖ず怖ずとその肩に手を回した。  ぽんぽんと赤子をあやすように背中をやさしく叩いてやる。  妹は僕の胸に顔を埋めて、肩を震わせ、泣き続ける。  僕はどうすればいいか分からず、ただただ背中をやさしく叩き、擦ってやった。  妹が目一杯泣いて、すっきりするまでそうしてやろうと思う。  だって、成長した妹の肩が昔よりも小さく、そして頼りなげに感じたから。 「一人に……しないで」
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