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ギシギシと頼もしくない音を立てる階段を上がり、オンボロアパートの行く末を憂いていると、うちのドアの前に見覚えのない男が立っていた。
さらさらの金髪に爽やかな顔立ち、細身ながら引き締まった肉体が特徴の中学生くらいの少年だ。
訝しげに思いながら、おずおずと声を掛けてみる。邪魔だし。
「あの、うちに何か用かな?」
僕の声に気付くと少年は野暮ったげにこちらへと振り向いた。
「ああ、ここのお宅の方ですか。すみません、間違えたみたいです」
予想もしなかった丁寧な対応に少々面食らっているうちに、少年は僕の隣を通り過ぎて行った。
なんだったんだろう?
腑に落ちないが、考え込む前に熱気に根負けして中に入ることに決めた。
「ただい」
ま、と言い終える直前、廊下で蹲る妹を見てギョッとして、言葉を飲み込んでしまった。
「お、おい。何か、あったの……か?」
僕がそう妹に尋ねた途端妹が顔を上げ、ぽろりと涙が零れた。なんの前触れもなく。
「あ、あ、あ……。に、にーちゃん……」
「いったいなにが……」
「う、うぅっ……、ふっ、う、うあああああん」
堰を切ったように涙がポロポロと落ちて、廊下に小さな水溜まりを作った。
僕は初めて見せる妹の涙に呆然としながらも、怖ず怖ずとその肩に手を回した。
ぽんぽんと赤子をあやすように背中をやさしく叩いてやる。
妹は僕の胸に顔を埋めて、肩を震わせ、泣き続ける。
僕はどうすればいいか分からず、ただただ背中をやさしく叩き、擦ってやった。
妹が目一杯泣いて、すっきりするまでそうしてやろうと思う。
だって、成長した妹の肩が昔よりも小さく、そして頼りなげに感じたから。
「一人に……しないで」
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