第二章:好意と憎悪は紙一重

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 それから、宙が帰ってきて、さめざめと泣く様を静かな驚きをもって眺められるまで、妹は泣き続けた。  妹を宙に任せ、僕は色々な液体で濡れたシャツを着替えてから、徐々に落ち着きを取り戻す妹から涙の理由を尋ねたのだが、帰ってくる答えは「一人にしないで」と「怖い」の二つのみであった。  酷く怯えている妹をどうにかしてやりたいとは思うのだが、如何せん事情がまったく分からない為、どうしようもない。  一人にすると半狂乱にでもなりそうなので、取り敢えず妹には僕と宙のどちらかが絶えず傍に付くことにした。  妹がうちに泊まりにやって来たことに、何か理由があるのではないのかと見当付けたのだが、探偵ごっこをするには情報がなさすぎる為、早々にその任へ就くことを辞退した。  気を晴らさせてやろうと外出に誘うも、妹はそれすら渋り、一緒にプチ引き籠もりしようぜ! と、逆にお誘い下さった。  食糧も既に買ってあるので、本日はこれ以上外出しないと妹に宣誓し、宙とあれこれと話し合うことにした。 「何か心当たりは?」 「「ない」」  でしょうね、と予想済みとばかりに淡泊な返事をする宙。  第一、妹とはほとんどメールだけの付き合いだ。文章など表面上はなんとでも取り繕えるので、妹の心境を知り得る筈がない。  頭を抱えて逃げ出したくなるが、現在唯一の肉親である妹を切り捨てることが出来るほど、僕は薄情ではない。 「無理にでも聞き出すしかないわね。理由を知ったからといって解決出来るとは限らないけれど」 「だよなぁ」  世の中、どうしてこう厄介事ばかりがはびこっているのかと愚痴りたくなる。  まま成らぬ世の中になっあものだと、一丁前に老け込んでみたら、宙に年寄り臭いのよ、と呆れ顔をされた。
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