第二章:好意と憎悪は紙一重

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 バス内に入ると、そこは異世界のように感じられた。エアコンの涼風が、僕のこめかみを冷凍保存しようと試みているのかのようだ。  割とがら空きだったので、奥の方の窓側の席に座った。その隣には妹、後ろに宙というポジショニングとなった。  そうして、一時停止していたバスが幾らか人を飲み込んで、ゆっくりと発進する。ぶろろろ、と座席は揺れて、丁度後輪の上に位置する座席に座った僕と妹は胃の奥が小刻みに揺らされる。 「海、楽しみだね!」  そう言って妹は僕の右腕にしがみついてきた。太陽が爛々と照り返す外ならば、問答無用で振り払ったんだけど、この冷え過ぎるバスには妹の体温は非常に心地よい。これで、無下に振り払うことが出来ようか、いや出来まい。 「イチャイチャするの禁止」  ずびしっ! と僕の脳天に天誅が下り、視界にぱちぱちと火花が咲いた。  若干、涙目になりつつ、ぐるりと振り返って宙を睨み付ける。  宙は窓の側に頬杖を突いて、憮然とした態度で僕を値踏みするように見つめ返してくる。  ひとしきり見つめてから、宙はぽつりと呟いた。 「……シスコン」 「じゃねーよ!」 「……ロリコン」 「じゃねーし!」 「はいはい」  最後に、宙は気のない返事で締め括って、窓の向こうの景色に目をやった。  で、実のない話が終わったところで、額付近に粘っこい視線が飛んできた。  妹がジーッと僕を見据えていた。何故か座席の上に膝を乗せて、腕を組んでのしかめっ面である。 「な、なんだよ」 「むーい!」 「んむー!」  なんとなく気押されていると、妹の指に僕の左頬が摘まれて、びろーんと伸びた。おぅおぅ。 「イチャイチャ禁止だしっ!」  あちらこちらと僕の頬が縦横無尽に伸び縮み。おい、遊ぶな。って、いたたたたた。 「楽しそうね」 「ぴっ!?」  と、宙も途中参戦し、僕の右頬をむーい! 加減皆無でむーい! 「ひはひ!」 「あは、にーちゃんモモンガみたーい!」 「柔らかいわね。ずっと触っていたいくらい」  それから海に着くまで、僕の頬は弄ばれたのでしたまる。
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