第二章:好意と憎悪は紙一重

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 喧しい嬌声、爽快な青空、忌々しいことにジリジリと僕達を焼く真夏の太陽。 「あっつぃ……」  早くも帰りたくなった。僕には世俗の娯楽には心踊らないらしい。夏の海の解放感よりも、夏の熱気に解放されたくて仕方がない。  足の裏が踏む砂は日差しに温められていて、熱したフライパンに放り込まれたみたいだ。あっちっち、と時々足を交互に砂から離さないと火傷してしまいそうだ。  宙達はまだだろうか、と周辺を見渡す。人、パラソル、人、海、人、テント、人、海の家。  人がごった返しになっていて人混み酔いと立ち眩みで、立ったまま瞼を下ろした。  ざざぁん、と寄せては返す波の音に耳を傾け、水着とパーカーという軽装になった全身で日差しを受け止める。  あぁ、海に来たんだなぁと再三実感する。  ひとしきり常夏の海を感じ取ったところで、水着やパーカーで覆われていない箇所に日焼け止めを隈無く塗り込んだ。  僕、日焼けすると赤くなっちゃうタイプだからね。焼けたくないんだ。それじゃあ海に来るなよって話だけどね。 「お待たせ」  日焼け止めを塗り込むことに精を出していると、宙の声が上から降ってきて僕は顔を上げた。  すると、あまりの眩しさに二度、目が眩んだ。  第一撃目は燦々たる陽光で眼球が焼かれた。  第二撃目は宙の水着姿に眼球が焼かれた。などとのたまえば、宙から罵声を浴びそうだ。  宙は飾り気のない黒色のビキニ姿だった。宙は着痩せするタイプだったみたいで、制服姿でも薄々感じ取っていたスタイルのよさが、露出度の高い水着姿になることで顕著になっている。  ついついすらりとした白い脚とか、予想以上にたわわに実っている果実に目がいってしまうのは、仕方がないことだと弁明したい。  やがて、僕の不躾な視線に気付いた宙は露骨に身体を隠しながら、その人形のような顔に嫌悪感を顕にする。 「遠峰くん、変な視線でジロジロ見ないでくれないかしら。気持ち悪いわ」  仰る通りなので何の言葉も返せずに黙り込んでしまう。気持ち悪いは少し傷付きます。あと、名字で呼ばないで下さい。 「どうでもいいけど、遠峰くん乳首見えてるわよ。世間に晒して恥ずかしくないのかしら?」 「あ、え、その、あー、水着だし……」  そのように殊更に指摘されると気恥ずかしい。思わず、パーカーのチャックを一番上まで上げた。つまり、競泳用の水着を着ろということか?
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