第一章:鏡の中の鏡

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 雀の囀りが静かな通学路に仄かに微かに響き渡る。  朝から喧騒の無い通学路はここが都会ではないことをはっきりと示している。  とはいっても田んぼが目に付くほどでもない。都会と呼ぶには田舎過ぎて、田舎と呼ぶには都会過ぎる。ここはそんな町。  ぼやっと考え込んでいると、正面に見たくないものを見てしまったというような顔をした宙を見付けた。奇遇だな、僕もだ。 「「……おはよ」」  随分間を空けて憮然とした態度で朝の挨拶を交わした。そのまま合流して、学校への一本道を意図せずして並び歩く。  居心地の悪い空気で流石の僕も気まずい。ここは、何か会話の切り口が欲しいところなのだが。 「それにしてもこの町は変わらないわね」  何の脈絡も無く、宙がボソッと呟いた。辺りを見回してもう一度。 「変わらない」  セピア色の思い出と照らし合わせているかのように宙は目を瞑っている。  僕はその横顔を尻目に辺りを見渡した。確かに変わっていない。昔のまんまだ。けれど、きっと変わってしまうよ。否応なしにさ。  午前中、学生の本分たる勉学に勤しんだ僕らに束の間の休息、昼休みが来訪した。  僕は四限目の用意を机に押し込むとおもむろに立ち上がった。勿論、食堂へ向かうためだ。一人暮らしだからといって、誰もが必然的に料理のスキルが高いという固定概念は消し去っていただきたい。 「ちょっとソラくん」  なんなのさー? 僕が答えなきゃ自分の名前をくん付けで呼んでる痛い人だぞ。 「なにかな、ソラさん?」  申し訳程度に下手くそな笑顔を添えてみた。僕のキャラじゃない口調と掛け合わせて、爽やか偏差値が六十を突破した。うわー、自己嫌悪。似合わない、気持ち悪い。エア土下座するから一刻も早く記憶から抹消してくれ。哀れむような目でこっち見んな! 「……あ、うん。見てないから、全然、うん」  宙の妙に優しげな気遣いが凄くきつい。居たたまれなさ過ぎて不登校になりそうだ。 「それは置いといて結局何の用だよ?」 「食堂どこ?」  ……昨日の僕の時間を返してくれ。
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