第二章:好意と憎悪は紙一重

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「ちょっと! にーちゃん、あたしも見てよっ!」  宙にいいように弄ばれていると妹が間に入り込んで、宙をスクリーンアウト。 「どうっ!? あたしのないすばでー」  妹はうふん、と自作のセクシーボイスを洩らしながら、ポーズを取って僕に批評を求めてくる。  妹は白いビキニにフリルが付いた、宙のものより大人しめな水着だった。スレンダーな体型で、まだ発展途上の中学生な妹にはよく似合っている。自称ないすばでーの肝となる胸部はその上で野菜を刻めそうだ。詰まる所、まな板。 「うん、似合ってるよ」 「えへへ、やったっ!」  僕の無難な感想に妹は照れ臭そうにしながら、両手で小さくガッツポーズを作った。  すっかり元気を取り戻したみたいだな、と目を細めていると、右頬に妙な視線を感じたのでそちらに振り向いた。  そこにはジト目で僕を見据える宙がいた。 「な、なに?」 「ロリコン、シスコン」 「誤解です」  責めるような宙の視線から逃れるように、妹の背中を押して海の家へと向かう。  海に着いてから宙の態度が何故かキツい。  心当たりもないので、あまり触れないようにしようかな、と考えていた矢先に宙の消え入るような声が聞こえたような気がした。 「……私は?」 「え、なに?」  上手く聞き取れなかったので、もう一度言葉を催促する。  すると、何故か宙は俯きながらぼそぼそと呟いた。 「……私は、その……似合う、かしら?」  尻すぼみな調子だったので、危うく聞き逃すところだった。  えーっと、つまり宙の水着姿も寸評しろと? 「……気にしないで。下らない戯れよ」  戸惑う僕を見た宙は、僕が口を開く前にそう言うと、僕から妹をひったくってずんずんと進み始めた。  唖然としてしまったが、すぐに我に返ると宙の後ろに駆け寄って、気恥ずかしさを我慢しながら宙の耳に囁き掛けた。 「凄く似合ってる」  口に出してから、顔から火が出そうだと思いつつも、何気ない風を装う。異性との付き合いに慣れていない僕には苦行だ。  対する宙は驚いたように目を見開いていたが、やがて溜め息を零してから小さく口端を緩めた。  幾分、機嫌が直った宙を見て安堵する。折角の海なわけだし、可能な限り楽しめればいいと思う。
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