第二章:好意と憎悪は紙一重

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 ザブザブと波を掻き分けて、沖へ沖へと進んで行く。  足の裏で砂を踏み締める度に、ひんやりとした冷気に擽られ、砂地に僕の足跡が残る。  やがて、水位が肩まで上がり太陽の熱い視線から逃れた全身は水圧で軽く絞られる。  水温に夏の熱気が吸い取られて気怠さが幾分マシになった頭は螺旋が少し緩んで、理性のブレーキを踏まずにアクセル全開。  周囲の目など厭わずに、僕は四肢を投げ出すようにして、大の字で海面に浮かんだ。  真夏の太陽に焼かれないように目をそっと細め、ゆらゆら、ぷかぷか海面を漂った。  あー……、気持ちいーい。  このまま海に溶けてしまいたい。生まれ変わるなら海月とかいいんじゃないか。  ふと、そんなことを思い付いた矢先、 「うりゃー」  顔面いっぱいに海水を浴びた。鼻の中に少し入った為、ツンと鼻を刺すような痛みとともに塩辛い味が口の中に広がった。  なんだなんだと身を起こすが、すぐに第二波が僕の顔面を襲った。  目が尋常じゃないくらい染みた。目端から自然と涙がこぼれる。 「な、なんだコノヤロー」  目を擦ってから、まだ痛む目を酷使して犯人の姿を確認する。 「あはっ、にーちゃん覚悟ぉ!」  やはりというか喜色満面のマイシスターだった。両手をひしゃくのようにして水を掬っている。第三波が放たれた。 「ちょっ、やめっ!」  しかし、今度はしっかり顔面をガード。そう何度もやられるような男ではない。  それからキャッキャウフフな調子で水掛けを続ける妹に律儀に付き合い、抵抗せずに顔面ガードで無抵抗主義を貫いていると、後頭部に強い一撃を貰った。 「後ろががら空きよ、シリコン」 「なんだよ、それ?」  振り返ると宙がビーチボールを片手に無愛想な顔で立っていた。 「これ? ビーチボールよ。貴方そんなことも分からないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」 「……なんでまた不機嫌なんだよ。そうじゃなくて、シリコンだよシリコン。なんで僕が液晶ディスプレイの材料の仲間入りしちゃってるわけ?」 「ああ。シスコン+ロリコン=シリコン。OK? そして、私は淫らなシリコンを狩るシリコンバスターよ。世にはびこる変態は私の手で海の藻屑にしてあげる」 「マジで意味が分からないです」 「問答無用」  手首のスナップが効いた見事なスパイクが襲い掛かってきた。
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