第二章:好意と憎悪は紙一重

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「こんなとこで会うなんて奇遇だな」  女たらしなのでタラちゃんと名付けられた彼はへらへらと笑いながら宙に話し掛けた。他の二人は妹に声を掛けている。  それに対して、宙は完全に無視してかき氷を食べ続け、妹は露骨に嫌そうな顔をして男たちの誘いを断っていた。  だが、そんな程度で諦めるならナンパなどしないだろう。タラちゃんは宙の手首を掴むと、無理矢理連れて行こうと力を込めた。  手首を強く掴まれたからか宙は顔を顰めると、ちらりとこちらに視線を向ける。  その瞳はこいつらをどうにかして、という意思を雄弁に語っていたが、如何せん砂に埋もれた僕は身動きが取れない。  返事の代わりに苦笑を浮かべると、宙は呆れたような表情を浮かべた。それから、タラちゃんに向き直ると、空いた方の手で頬を全力で引っ叩いた。  響く快音。  その細腕からは想像出来ないような一撃をもらったタラちゃんは、思わず砂浜の上に尻餅を付いてしまう。頭がまだ状況に追い付かないのか、頬を押さえたまま呆然と宙を見つめている。  ナンパ男達も唖然として、妹から目を放してしまう。妹はその隙にそそくさと僕の元へやって来ると、宙に惜しみない拍手を送りながら、足で雑に僕を掘り起こし始めた。  だんだんと身体を押さえ付ける重みが失われるのを感じながら、宙とタラちゃん達の動向に目を向ける。 「やめてくれないかしら、迷惑なの」  凛とした声音、毅然とした態度。その堂々たる立ち振舞いに大きな拍手を送りたくなる。  が、しかし。そんな行動は男の安っぽいプライドを叩き潰すのには充分過ぎた。 「ンの女ァ……!」  タラちゃんの瞳が激情に燃え、素早く立ち上がると、怒号とともに腕を思いっきり振り上げた。
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