第二章:好意と憎悪は紙一重

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 あの後、右手首を掴まれたままぼんやりとしていたら、何故かきわどいビキニ姿のお姉さんから背負い投げを食らった。  そのあまりの勢いに昏倒しているうちにタラちゃんは病院に運ばれ、女子勢二人とナンパ勢二人は事の顛末を話していたらしい。  女子勢二人の擁護により、過剰な行為ではあるが状況を鑑み、二週間の停学処分で、僕は許されてしまった。  夏休み中に停学処分にして何の意味があるのか。  ともあれ、大した事態にならなかった? のは本来、諸手を上げて喜ぶべきなのだろうが、そんなふざけた行為を容認してくれる状況ではなかった。  現在、僕は件のビキニ姿のお姉さんに取り調べを受けている。  目元にくっきりと隈がある三白眼にそばかす顔、腰まで優雅に波打つ栗色のウェーブ。きわどいビキニに身を包んだ、いや包みきれないグラマラスボディ。いやぁ、ディモールト。  なんて上から下まで不躾に眺めていると、鼻先をでこぴんされた。痛い。 「どうやら君は私の素性を疑っているようだね」  お姉さんは僕が下心で肢体を眺め回していたのを、どう勘違いしたのか僕を疑り深い人間と判断し、胸元に手を突っ込んだ。何故。  二つ実ったメロン大の餅と餅との谷間から黒い手帳を取り出すと、餅が揺れる。思春期真っ只中の青少年を挑発しているのだろうか?  と、そっちに気を取られている間に僕の眼前に手帳がずいと押し付けられる。  濡れてよれよれになった桜の代紋と青い制服に包まれたお姉さんの姿があった。  「……しまった。携帯したまま海に入ってしまった」と、とても反省はしていない表情で言い放ち、胸元をぽりぽりと掻く。  まぁ、いいか。とぞんざいな口調で呟くと僕に向き直ったお姉さんは真剣な顔を作った。 「ともかく、私は警察で、君は事情聴取を受けているというわけ。まぁ、既に解決しているのだから、形だけだがね」  表情とは対照的にフランクにそう言うと、また谷間に警察手帳を挟み、パイプ椅子に腰を降ろして足を組んだ。だから、何故。 「ところで、君は葵が診ている子だろう?」 「誰です、それ?」 「君の学校の保険医であり、君が通う病院の医院長」 「あぁ」 「私の後輩なんだ」 「へぇ」 「君が停学処分で済んだのも葵がちょっと手を回したおかげだから、あとで礼を言うんだね」  奇妙な縁が繋がったようだ。
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