第二章:好意と憎悪は紙一重

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「ふむ。それにしても君は葵に好かれそうな顔をしているな」  その後、手短に取り調べが済まされると、お姉さんとの雑談に移行した。勿論、お姉さんは水着のままである。大変目の保養ごほんごほん目に毒だ。 「ええ、いつも苦労してます」 「やはり、な。あれの求愛行動は非常に過激だろう。ふ、私が高三の時に小学生の男児を取り合ったのを思い出す」 「……へぇ」  そんな頃から年下の男にちょっかい掛けてたのか、あの人。そしてこの人も。 「……そういえば、いきなり背負い投げを食らわせてすまなかったな。どれ、頭を見せてみなさい」  お姉さんは唐突にそう切り出すと、僕の頭を掴み、引き寄せた。眼前に餅が、餅が! 「なんと、瘤が出来ているじゃないか。いや、本当にすまない。可哀相に」  慈しむように撫でる手が程よい冷たさで心地好く感じるのと同時に、面識のない人物との接触による拒絶と羞恥心とで、頭皮に汗をかくのを感じた。  安心感と嫌悪感が同席しているような、妙な心地に陥りながらも、されるがままに甘んじた。 「おや? ……ふ。私の母性にメロメロかな?」 「メロンメロンです」  貴方の胸部が。 「ふふん。私の色香はいたいけな少年を惑わしてしまうようだ。警察官なのに罪な女とは由々しきことだ」  お姉さんは得意気にそう言い、さらに僕を胸元に引き寄せようと……、 「ちょっと待ったーぃ!」  ズバァッン! と響く快音を追い越す勢いで白衣の女性が部屋に飛び込んで来て、さながらアメフトのようなタックルで僕の腰を捉え、そのまま床に押し倒した。  迫る地面。そして待ち受ける衝突。 「ふがっ!?」  鈍い音を立てて鼻からぶつかり、痛みに悶え、人間ローラーとして床掃除に励むことになってしまった。 「はっ!? ダーリン! 鼻血、鼻血が! くそぅ、遅かったのね。ダーリンは既に魔の手に堕ちたのね?」 「ふふん。既に彼の心は私のものだ」 「なんですとー! 消毒、消毒しないと! ほらっ、ダーリン気をしっかり!」 「気が触れてるのはアンタだ! 唾液垂らしてんじゃねぇよ!」 「ほーら、今なめなめしてあげるからね。ほら、でろーん」 「ありがとう、先生愛してる!」 「よっし、キタ! ほら、婚姻届出しに行くわよ!」 「おぉい! 僕になりすますな! って、なんでうちの実印押されてるんだよ! うわ、うわぁぁぁ!?」
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