第二章:好意と憎悪は紙一重

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 時は移り翌朝、郵便物が投函された音で目が覚めた僕は、まだ目覚め切っていない身体を動かして郵便受けへと向かう。  顎が外れそうな程の大きな欠伸が洩れて、目に生理的な涙が滲む。バイクのエンジン音がしなかったのを不審に思いつつ、郵便受けの元に辿り着いた僕は蓋を開けて取り出した。  手に取ったそれは差出人が不明の封筒だった。宛名は妹の名が書かれており、無理矢理沢山詰め込まれたのか、今にもはち切れんばかりに膨れ上がっている。  何故、妹宛ての封筒が此処に……? と訝しげに思いながら、リビングへ。  熱帯夜で汗ばんだ身体のベタつきや匂いをが気に掛かったものの、渇き切った喉を潤わせることに気持ちが傾いた。  冷蔵庫から冷え切った麦茶を取り出して、一息に飲み干した。 「「おはよう」」  足音に気付いたので声を掛けたら、ものの見事に被った。  つまり、相手は宙だ。 「それは、なにかしら? 剃刀レター……それとも不幸の手紙? なんにせよ、友達のいない貴方に届く手紙なんてろくなものじゃなさそうね」 「機嫌悪そうだな? ……ああ、そうか」 「「低血圧」」 「だったな」 「よ」  宙は億劫そうに目を擦り、ふらふらと危なげな足取りでこちらに近付くと、僕の手からコップを乱暴にひったくる。  そして、空のコップを一気に呷る――のだけれど、一滴の雫が降ってきただけで、喉の渇きを癒すことは出来ない。  宙は眉に深い皺を作ると、僕の頬にぐいぐいとコップを押し付けた。 「お茶」 「ほら」 「注いで」 「えー……」 「注いで!」 「痛っ!」  頬をコップで殴られ、仕方なくお茶を注ぐ。宙は満タンになったそれをゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すと、再び僕の頬にコップを押し付けた。 「ありがとう」  そう言うと同時にコップを掴む手が開かれ、支えを失った硝子の器は重力の虜となる。  慌てて引っ掴んで、悪ふざけの過ぎる宙に一言忠告してやろうと顔を上げると、既にそこに宙の姿はなく、代わりに顔を真っ青に染めた妹の姿があった。 「にーちゃん……、どうして“ここに”それがあるの?」  震える声で紡ぎだされた言葉の後、ダムの堰を切ったように、妹の瞳から涙が溢れだした。  指差された茶封筒はただ夏の朝日を照り返すだけだった。
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