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時は移り翌朝、郵便物が投函された音で目が覚めた僕は、まだ目覚め切っていない身体を動かして郵便受けへと向かう。
顎が外れそうな程の大きな欠伸が洩れて、目に生理的な涙が滲む。バイクのエンジン音がしなかったのを不審に思いつつ、郵便受けの元に辿り着いた僕は蓋を開けて取り出した。
手に取ったそれは差出人が不明の封筒だった。宛名は妹の名が書かれており、無理矢理沢山詰め込まれたのか、今にもはち切れんばかりに膨れ上がっている。
何故、妹宛ての封筒が此処に……? と訝しげに思いながら、リビングへ。
熱帯夜で汗ばんだ身体のベタつきや匂いをが気に掛かったものの、渇き切った喉を潤わせることに気持ちが傾いた。
冷蔵庫から冷え切った麦茶を取り出して、一息に飲み干した。
「「おはよう」」
足音に気付いたので声を掛けたら、ものの見事に被った。
つまり、相手は宙だ。
「それは、なにかしら? 剃刀レター……それとも不幸の手紙? なんにせよ、友達のいない貴方に届く手紙なんてろくなものじゃなさそうね」
「機嫌悪そうだな? ……ああ、そうか」
「「低血圧」」
「だったな」
「よ」
宙は億劫そうに目を擦り、ふらふらと危なげな足取りでこちらに近付くと、僕の手からコップを乱暴にひったくる。
そして、空のコップを一気に呷る――のだけれど、一滴の雫が降ってきただけで、喉の渇きを癒すことは出来ない。
宙は眉に深い皺を作ると、僕の頬にぐいぐいとコップを押し付けた。
「お茶」
「ほら」
「注いで」
「えー……」
「注いで!」
「痛っ!」
頬をコップで殴られ、仕方なくお茶を注ぐ。宙は満タンになったそれをゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すと、再び僕の頬にコップを押し付けた。
「ありがとう」
そう言うと同時にコップを掴む手が開かれ、支えを失った硝子の器は重力の虜となる。
慌てて引っ掴んで、悪ふざけの過ぎる宙に一言忠告してやろうと顔を上げると、既にそこに宙の姿はなく、代わりに顔を真っ青に染めた妹の姿があった。
「にーちゃん……、どうして“ここに”それがあるの?」
震える声で紡ぎだされた言葉の後、ダムの堰を切ったように、妹の瞳から涙が溢れだした。
指差された茶封筒はただ夏の朝日を照り返すだけだった。
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