第二章:好意と憎悪は紙一重

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 綺麗な便箋に綴られた、気味の悪い言葉たち。送られてきた写真の写りが、並べられた文字の筆跡が美しくあればあるほど、奇妙に、不気味に感じられた。  異常な、異様な、奇怪な。溢れんばかりの好意。そして憎悪がそこに何食わぬ顔で共生しているのだ。  愛憎、というものだろうか。好意が強ければ強いほど、それに比例するように憎しみが膨れ上がっているようだ。  たかが、手紙で。  第三者にすらここまで感じさせる狂気。  心の底から沸き上がる嫌悪感に身を震わせ、この悪意に祟られているわけでもない僕でさえ、底知れぬ恐怖を感じた。 「気持ち悪い」  異物に対する人間の反応は、結局この一言に帰結するのだ。 ◇ ◇ ◇  あれから、僕自身が落ち着くのを待ち、それから宙を呼んで何も言わずに封筒一式を手渡した。  宙は僕の未だに引きつった顔を見てただごとではないと察したのか、訝しんだりすることなく受け取った。  まず写真を見て、続いて便箋に目を通す。  それから目頭を押さえて溜息を漏らし、次に思い出したように身体を震わせ、最後に嫌悪感と恐怖感で倒れ伏しそうになっていた。 「「気持ち悪い」」 「だろ?」 「わね」 「それも相当」 「悪質で異常な」 「「ストーカー」」  揃って引き攣った顔を作り、顔を俯かせた。  これは、僕らの手に負えるものではないんじゃないだろうか。妹がこの悪意に蝕まれて、苦しんでいるというのに、何もしてやれないのは辛いが、どうしようもない。  僕らは学生で、ストーカーを撃退することも、心を病んだ妹を治療することも出来ない。  せいぜい、ストーカーを警戒して、妹を一人にしないようにどちらかが常に一緒に居てやったりする程度だ。  だから僕らは頼ったり、利用したりしなくてはならない。有能な大人達を。  そして、幸いにも僕の周りの大人は有能な人ばかりだ。
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