第二章:好意と憎悪は紙一重

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 先生が険しい顔を作っての第一声はこうだった。 「かーなり、弱ってる」 「そう、ですか」 「……そう。君も、義妹さんも」  おい、表記ミスやめろ。妹だ。先生の義妹になる予定はありません。 「君と君の妹は、精神がほっそいの。わざわざ口にするのは嫌だけど、あの事件のせいでガリガリと削り取られちゃったわけ。人より敏感で壊れやすいの」 「……僕はともかく、妹はあんなに元気だったじゃないですか。その、ストーカー云々があるまでは」 「君にもそう見えちゃってたか。いや、逆に自分が同じだからこそ、分からない、理解出来ないのかもしれないね」  先生はまるで自分のことのように辛そうに話すと、ぐったりとソファーに沈み込んだ。  やりきれなさに思い悩んでいるように見える。 「君と君の妹は両親を失い、残った肉親はお互いのみ。君と居た時は、君を心の拠り所に出来たかもしれない。けど、君が妹さんを叔母さんに預けてからは、妹さんの心は宙ぶらりん」 「……」 「幼少期、心の建設中に横槍入れられて、組みあがったものは不揃いで不恰好。そんな未完成品で作られた人間が“普通”の人間の中に放り込まれたら、どうなるか分かるよね?」  イジメ、疎外、迫害。 「そこで妹さんが自分を守るために作り上げたのが、仮面。不出来な人間として作られてしまった自分を他人から覆い隠し、騙し。そして、自分さえも騙す。本当はもうズタズタになってしまった自分を無意識に殺して」 「……」 「笑顔の奥の奥に。壊れた心を隠して、耐えて、絶えた」 「……そんな話」  それ以上、聞きたくない。やめてくれ。僕は見殺しにしたんじゃない。気付かなかったフリをしたんじゃない。仕方がなかったんだ。だって、だって……そんなの自分だけで精一杯じゃないか。 「愛する最後の肉親が心をゆっくりと時間を掛けて、組み直そうとしているのを邪魔しないように、気遣われないように。幼く拙い笑顔の仮面を被って」 「……めてくれ」 「そして、自分を蝕む悪意に呑まれた」 「やめてくれ!」
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