第二章:好意と憎悪は紙一重

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 罪悪感で潰れそうになって、僕は壊れたフリをする。僕に触れようとするあらゆるモノを拒もうとする。  だって、僕は不幸で不完全で。  そうでもしないとやりきれなかったから。  だから、僕より幼い妹の方がずっと辛いのを知っていて、気付かないフリをした。  醜いエゴで固めた心の堤防で、妹を寄せ付けなかった。  妹の隠しても隠しきれない惨状に目を瞑って、突き放した。  僕なんかに妹の名前を呼ぶ権利はないと勝手に思い込んで、妹の名前を、存在を否定した。  全部、先生の言う通り。  避け続けてきた現実は、昔よりずっと酷くなってしまっていて。  どうしてあのとき何もしてやらなかったんだ、と後悔して。  それでも、僕はまた逃げて。  全部、あの日のせいにして。  気遣う周りの人を騙して。  そして、気付いた。  僕が嫌う理不尽で自分勝手な、“悪意”と僕がなんら変わりないということに。  だから、僕は振り返った。  妹を見据えた。  妹を救うのだ。  妹に巣食うのだ。  もう、僕の大切なモノを悪意に奪われないように。  悪意に巣食われた妹の中に割り入って。  巣食う悪意を追い出して。  また悪意に巣食われないように僕が悪意となって巣食うのだ。救うのだ。  エゴだ。  全部僕のエゴだ。  誰のためでもない、僕自身のために。  僕はスクウよ。
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