第二章:好意と憎悪は紙一重

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 八月もいよいよ半ばに差し掛かり、いよいよ明日から年に一度の夏祭りが開かれる。  この糞暑い中、夏の熱気では飽き足らず毎年盛況の夏祭りに人々の熱気が立ち込める。皆さん、元気です。  やれ正月だ、やれバレンタインだ、やれクリスマスだ、と神に仏に浮気祭りの現代日本人としては、見逃せない一大イベントに違いないのだろう。  普段は閑散としている神社も正月とこの夏祭りの日だけは人でごった返しだ。  閑話休題。その夏祭りなのだが僕が最後に行ったのはかれこれ五年以上前になるのだが、今年は訳あって参加することになった。  今年は僕達にとっても一大イベントとなるのだ。いや、勝手にそうするのだけれども。  面子は僕、宙、そして――妹。  ストーカーの脅威はあれからも去っておらず、日に日に投函される気味の悪い便箋の数は増していくのだが、犯人は一向に捕まる気配がない。  警察官が常にとはいかないが、極力時間を割いて巡回しているというのにも関わらず、それらしい人物が見付からないとのこと。  そのまま過ごしていても問題は解決せず、夏休みの終わりが迫って来るだけだった。  夏休みが終われば僕が妹についていられる時間は減ってしまい、さらに妹にも学校があるため伯母の家に帰らなければいけないため、危険に晒されてしまう可能性が今以上に増してしまうだろう。  そこで僕は決断した。「僕から家族を奪う者がいるのならば、――てしまおう」と。  そのために、僕は心からの謝罪と懺悔を妹に告げ、そして祭りへ共に赴くように懇願した。 「僕が○○を絶対守るから」  まだ、妹の名を僕が口にするのは許されない。陳腐な台詞と根拠のない自信。赦しなど、信用など、得られる筈がない。  なのに、○○は。 「――にーちゃん。謝らなくてもいいんだよ。あたしはにーちゃんが頼らせてくれる……、それだけであたしには充分だから。あたしはにーちゃんを信じるよ」  その無垢な笑顔が、優しさが僕には辛くて、はらはらと涙をこぼしてしまう。  絶対に、絶対にもう僕から何も奪わせない。そんな決意を胸に、僕は明日を待った。
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