第一章:鏡の中の鏡

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 宙を引き連れて、やって来たのは何を隠そ「何で保健室?」……こら、割り込むな。 「失礼しまー」  返事を待たずにガラガラと扉を引いて室内を覗くと、初めに目に飛び込んで来たのはカップラーメンを啜る保健室のボス。髪の毛は寝癖だらけで、スリッパを脱ぎ散らかして、足を遠慮なく伸ばしていて凄くだらしねぇーっす。 「ずびずばー?」 「白衣に汁が飛んでますよ」  こっちを凝視しながら、ラーメンを啜る音で会話を試みる、婚期を逃した保健医(32)があらわれた! 「ずびしっ」  ラーメンを啜る音と俺の頭に振り下ろされたチョップの効果音が重なる。心読まれた? 「んぐんぐ。で、何の用? もしかして、告白ですかー? いや、先生まだ心の準備が……」 「ずびしっ」 「あうあう」  お返しに鼻先へでこぴんしてやった。変に若く見せようとしているところがなんというか、ねぇ。見るに耐えないと言いますか、苛立つと言いますか。 「カップ麺貰いに来ました」 「また昼飯狙いかー! 早くしないとあたし嫁いじゃうぜー。で、何にするの?」  先生が、がさがさとベッドの下に潜り込む。成る程、あんなところにカップ麺を隠してるわけか。 「さっさと嫁いじゃって下さい。えと、今日は二つお願いしたいんですが……」  後ろの宙の手を引いて保健室に引っ張り込む。いきなり引っ張られた宙はつんのめりそうになり、こちらに振り返ってキッと睨み付けてくる。  まぁまぁと宙を諌めていると、物色していた先生がベッドの下からもぞもぞと抜け出した。 「二つなんて、君は食いしん坊さんだなー。なんなら先生を食べちゃきょわっ!?」  先生が奇声を上げて、目を剥いて、石化した。  ややあって、残像が見えそうなくらい高速で瞬き。そして、目をごしごしごしごしごしごしごしごし…………や、網膜が傷だらけになりますよ。  目線が僕と宙の間をせわしなく往復し、唇はわなわなと震えている。  そして震える指で僕らを指差し、臨時休業していた唇が開店する。 「ダーリンが二人っ!」 「「いや、違うから」」
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