第二章:好意と憎悪は紙一重

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◇ ◇ ◇  ああ、可愛い。可愛い、可愛い私の人形。愛美さん、私は君の全てが好きです。  はにかんだ笑顔や時折覗く小さな八重歯、ぴょこぴょこと跳ねるサイドテールも愛らしく、控え目な胸とマッチしたスレンダーな体付き、全てが魅力的です。可愛らしい、愛らしい。ああ、私には君さえ居れば何も必要ありません。 「お義兄さんですね? お初にお目にかかります、先日お伝えしたように、今宵は愛美さんをお迎えに上がりました」  ああ、浴衣姿も似合いますね。いつもの髪留めも良いですが、簪(かんざし)もこれまた乙なものですね。先日の水着姿も麗しかったですし、いつもの制服姿も素晴らしい。やはり、愛美さんは何を着ても絵になります。 「さぁ、愛美さん。私とともに行きましょう。私は貴方を必ず幸せにしてみせます。いえ、私でしか貴方を幸せにすることは出来ません。むしろ私以外にその資格はない」  何故、お義兄さんが愛美さんを庇うように立ち塞がるのですか? 分かっているでしょう? 私でなければいけないのです。いや、それにしても愛美さんの血縁だけに、お義兄さんも美しい。もし、お義兄さんが女性だったなら、私としたことが目移りしてしまったかもしれません。いえ、それは有り得ないことですね。私はどうして妄言を口にしたのでしょうか? 「さぁ、愛美さん」 「…………いや、です」  まったく愛美さんは照れ屋さんですね、お義兄さんの前なのできっと恥ずかしいのでしょう? 大丈夫、なんら恥ずかしいことなどありません。全て、私に任せて頂いて構いません。 「愛美さん恥ずかしがることはありません。好き合う者が添い遂げることは至極当然のことなのですから」  おや? 愛美さんがその可愛らしい瞳に涙を溜めてらっしゃる。感極まったのでしょう。ええ、私もですよ。今日は今までの人生で最も素晴らしい日なのですから。 「あたしは…………貴方のことが嫌いです」  そうですよね、好きなんですよね。私も愛美さんのことが好きです。愛しているといっても相違ない。ですから、さぁ行きま……………………………………はぁ?  なんと仰られたのかよく分かりませんでした。おかしな言葉が聞こえたような、いや聞き間違いですね。私が愛美さんの言葉を聞き損なうなど言語道断ですが、今宵は少々舞い上がってますからね。 「あたしは、貴方が嫌いです! こんなこと、もうやめて!」
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