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「やり過ぎた?」
「どう見ても過剰防衛、むしろ攻撃の範疇」
「だよねー」
「……」
「……」
「「まぁ、いいか」」
妥協というより現実逃避をして二人は地面に座り込んだ。
「そろそろ、それ取ったら?」
「ああ、そういえば……。あんまり馴染んでるから忘れてた」
お兄ちゃんは髪を引っ掴んで、空に向かって放り投げた。
窮屈に押しこめられていた濡れ羽色の長髪が風に舞う。お兄ちゃんは“お姉ちゃん”になった。
「つーか、あたしの兄は“にーちゃん”一人だけで“お兄ちゃん”なんかいないし」
「なにか言ったかしら?」
「べっつにー」
「あう……、髪が汗でベタベタぁ……」と、文句を垂れるお姉ちゃんの頭をにーちゃんがガシガシと乱暴に撫でた。
「ちょっ、やめてよ! ボサボサになるじゃない!」
「あはは。無礼講、無礼講」
にーちゃんはいつもより緩んだ声音で楽しそうに笑っている。嫌がるお姉ちゃんを無視してガシガシと撫で続ける。
「ほら、“愛美”も」
あ、え、ええ? にーちゃん、が。にーちゃんが、あたしの。あたしの名前を呼んだ?
「愛美? 聞こえてる?」
ああ……。それだけであたしは救われる。あたしがにーちゃんに許容される。
胸が熱くなって、不意に視界がぼやけた。許容量を超えたそれが頬を伝って流れ落ちる。
「うぇ、え? そこで泣くの?」
「やーい、泣かした、泣かした。女泣かせのシリコン男」
「シリコンじゃねえよ!」
なんて戯れる二人を見て、あたしは可笑しくなってお腹を抱えて笑いだしてしまう。
突然、笑い転げたあたしを見てきょとんとする二人。笑い過ぎて息も絶え絶えになりながらも、あたしは笑い続けた。
こんなに笑ったのは久しぶりだったから。ようやく、あたしの本当の笑顔を晒せるから。
そんなあたしを見て、何故かにーちゃんも涙を流しながら、嬉しそうな笑みを形作った。
「明日三人で祭りを楽しもうか」
返事の代わりに、あたしは心からの笑顔を浮かべた。
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