一章 嫉妬と笑顔

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 落胆中の裕二を引きずりながら家を出ると、そこで前方にこちらに背を向けて立ち尽くす少女の姿を見つけた。  薄い茶髪を肩の辺りで切りそろえ、小さな背丈と幼い顔立ちのせいか、とてもじゃないが高校生には見えないその少女の名前は風見千秋(かざみちあき)。  四年前に両親を亡くしてから、俺が居候をさせてもらっている風見家の末っ子だ。  俺にとっては妹のような存在。  千秋は俺達に気づいたようで振り返ると……じんわりと瞳に涙を浮かべた。 「おにぃ……ちゃん……」 「ち、千秋!? どうした、大丈夫か?」  いきなり泣き出してしまった千秋の元に駆け寄り、優しく頭を撫でながらたずねる。 「うぅ……さみしかった」 「あー…………ごめんな」  俺達は仲の良い兄妹……いや、仲の良すぎる兄妹なんだ。  千秋はきっと俺が黙っていなくなったから心細くなってしまったのだろう。……悪いことをしたな。
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