一章 嫉妬と笑顔

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 買い物を終え、久世家への帰り道を歩く途中、不意に百合ちゃんが足を止めた。  百合ちゃんの視線の先には、夕焼けに染まる公園で遊ぶ二人の子供とそれを見守る一組の夫婦。  自分もああいった光景を見て同じ感情を持ったことがあるからわかる。  自分が持っていないものを持っている。それに対しての『嫉妬』  まだ高校一年生の女の子。一人知らない土地に放り出されて、不安にならないはずがないんだ。  俺は寂しさに震える百合ちゃんの手の平を、自分のそれで優しく包んだ。  ……いや、寂しいのはお互い様か。 「……寂しい?」  百合ちゃんとの目線を合わせるように屈み、そう聞く。 「寂しくないって言ったら嘘になってまうけど……今は、兄ちゃんが隣にいてくれるから……頑張れる」  同じ目線から見た百合ちゃんの笑顔は、確かに彼女が一人の女の子、『異性』であることを再認識させる。  自分のことを必要としてくれている。そんな百合ちゃんの想いが、自分に対して弱さを見せてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。
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