二章 刹那の一枚

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 久世家での生活にも段々と慣れ始めてきた。  実際子供だけの生活は気が楽だし、百合ちゃんのご飯は美味しいし、居心地の良さは言うことなし。  まあ、だからといってここに住み着きたいとか、そういう気持ちはまったくない。  春香さんにはずっとお世話になっているから、いつか恩返しがしたいと思っているし、姉ちゃんはともかく、千秋は今頃寂しい思いをしていることだろう。  今すぐ帰ってやりたい気持ちはもちろんあるが、百合ちゃんと裕二を二人きりにしてしまったら百合ちゃんの身が危ないからな。  …………本当に、それだけなのだろうか。  居心地がいい。ご飯が美味しい。百合ちゃんが危険。裕一さんに頼まれたから。  俺が今、風見家に帰らず久世家で過ごしている理由は、本当にそれだけなのだろうか。  最初は頼まれたから仕方なくだった。  けれど、少しずつだけど、ここでの生活を楽しいと感じるようになってきたのは確かだ。  なぜ? 裕二と一緒に居られるからってのは有り得ない。気持ち悪い。  ならば――と考えたところで頭の中に一人の少女が浮かぶ。  まさか……ね。
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