二章 刹那の一枚

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「こればかりは新山でなくてはダメだ」 「なんでだよ」 「彼女が入学してから今日まで、新山以外の人間の前で笑顔を見せたところを、俺は見たことがない」  そんなことは、ないと思うけど。  俺のクラスメート、咲崎楓(さきざきかえで)と一緒にいる時なんかは楽しそうに見える。  でも、言われて思い返してみれば確かに、その時の表情は緊張している風で、笑顔……ではなかったかもしれない。 「久世百合は人見知りが激しい。一人の時はもちろん、交流のない俺が近づいても笑顔を見せることはないだろう。だがしかし、新山、お前なら久世百合の笑顔を正面から撮ることができる」 「もし写真を撮ることができたとして、お前はそれを売りさばくのか?」 「ふっ、そんな野暮な真似はしないさ。ただ俺のコレクションに加えるだけだ」  それはそれで果てしなく嫌なんだが……
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