二章 刹那の一枚

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 夕飯の買い物中百合ちゃんは終始楽しそうではあったけれど、やはりなかなか笑顔を見せることはなかった。  別に写真を撮りたいわけではない。ただ、百合ちゃんには笑顔で過ごして欲しかったから、俺は思い切って気になっていた事を聞いてみることにした。 「百合ちゃんはさ、ご両親のことどう思ってるの?」 「…………嫌い」  この辺りは、俺とはまったく違う。  百合ちゃんは離婚してしまった両親に対して怒りを覚えているのだろうか。  もしくは久世家に一人だけ預けられたことに対して? もしくはまだなにか別の理由が……  なんにしても、この子が『家族』という存在に飢えているのは間違いないだろう。 「本当の家族にはなってあげられないけど、俺のことをお兄ちゃん代わりだと思っていいから……百合ちゃんは一人じゃないからね」  少しでも安心させてあげられたらと思って言った一言だった。  けれど、振り返った百合ちゃんの表情は笑顔などではなく、その頬には一筋の涙がつたっている。  どう……して?  その一枚の光景は、俺の脳内に鮮明に焼き付いた。
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