三章 些細なすれ違い

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「それでね、その時の猫が凄く可愛くて、思わず私のお弁当を少し分けてあげちゃったんだけど、実はその猫は飼い猫で、飼い主さんに『勝手に食べ物を与えるな!』って怒られちゃって……」  我らが二年二組のホームルームが長引いてしまう理由、それがこの担任教師、時雨彩(しぐれあや)の連絡事項(という名の世間話)だ。  長い時は三十分近く喋る時もあるから質が悪い。  美人で親しみやすい性格のせいか、基本的には生徒からかなり人気があるので、誰も文句は言えないんだけどね。  とにかく、三十分もこの場に釘付けにされては百合ちゃんが帰ってしまう。  比泉はいい案があると言っていたので、とりあえずは信用するしかないだろう。  ――その比泉が、口パクで俺になにかを伝えようとしている。  なになに……机の左に立て?  この行動になんの意味があるのかはわからないが、俺はとりあえず言う通りにすることにした。
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