三章 些細なすれ違い

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 自分の話に夢中になっているのか、彩先生は俺が立ち上がったことには気づいていない。  左隣に座る美鶴はいきなり隣に立った俺に対して訝しげな視線を向けている。  とりあえず言う通りにしてから比泉の方を見てみると……奴は怪しげなスイッチを手に持っていた。  まさか――と、気づいた時にはすでに遅し。  比泉がスイッチを押すと同時に、俺が立っていた一部分だけ床が抜ける。  まさか、この教室にも写真部の隠し通路があったなんて。  俺は悲鳴をあげる暇もなく、微妙に傾斜になっている穴の下を勢いよく滑り降りて行った。  そうして、放り出されたのは校舎の内側にある中庭の植え込み。  枝があちこちに刺さってかなり痛い。  比泉には後日お礼という名の制裁を加えてやるとして、今は下駄箱で靴を履き替えて百合ちゃんを待とう。  鞄は……裕二にメール出しとけば大丈夫かな?
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