三章 些細なすれ違い

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 校門の前で待つこと数分、一年生と思われる生徒達の中に、百合ちゃんの姿を見つけた。  視線があったので、向こうもこちらに気づいていることだろう。 「やあ、百合ちゃん」 「兄ちゃん……どうして……それにその制服……」  困っているような、驚いているような、どうにも読みにくい表情。  俺の制服は先ほどのダストシュートのおかげで葉っぱや砂埃でぐちゃぐちゃだ。 「いや、一緒に帰ろうと思って……迷惑だった?」 「ううん……迷惑なわけない。嬉しい」  そう言った百合ちゃんの瞳は若干涙目になっている。  女の子の涙ってほんと苦手なんだよなー。 「今日も夕飯の買い物?」 「今日は家にあるもので済ますつもりやったから……」 「そっか、なら帰る前にさ、町でケーキでも食べに行こう。もちろん俺の奢りで」 「そ、それって……なんかデートみたい」 「あー、言われてみれば、俺は今百合ちゃんをデートに誘ってることになんのかな」  あんまそういうこと意識してなかった。  きっとこういうとこがダメなんだろうな。 「それじゃ、デートに付き合ってもらえるかな?」 「うんっ!」  その時の表情は偽りのない笑顔で、やっぱり百合ちゃんには笑顔でいてくれた方が、俺も嬉しい。  仲直りも上手くいきそうだし、この際どこからか聞こえてきたシャッター音は気にしないでおこう。
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