三章 些細なすれ違い

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「なんの用だ?」  比泉に向かい聞くと、奴は微笑したまま答える。 「なに、一応礼を言っておこうと思ってな」 「礼って……なんの?」  比泉は懐から数枚の写真を取り出し、隣を歩く百合ちゃんの視界には入らないようにして、俺に見せる。  そこに写っていたのは、昨日の光景。  笑顔を見せる百合ちゃんの姿だった。 「やっぱりあの場にいたのか……」 「む、俺の存在に気づいていたというのか。……ふっ、新山よ、お前の成長を嬉しく思うぞ」  できればあまり成長したくない能力なだけに、俺自身は嬉しくはない。 「ところで、これはもらっていいのか?」 「……欲しいのか?」  当たり前だっ!!  ――と、叫びたい衝動を抑え、コクリと頷く。  だってほら、可愛い女の子を見たいってのは男の子なら当然のことで……  それがなかなか見られないものとあっては、欲望を抑えるのは困難なのですよ。 「まあ、データは残っているから好きにするといい。その変わり、またよろしく頼むぞ」  ふむ、俺が男である以上、比泉からは逃れられない。  最近はそんな風にも思うようになってきた。
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