三章 些細なすれ違い

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 学園での授業も終わり、五日目も無事に終わろうとしている。  土曜日には裕二の両親が帰ってくるので、この生活も気づけば残り二日。  その日の帰り道、何気なく隣を歩く百合ちゃんに視線を向けて見ると、丁度タイミングが重なったのか、それともずっと見られていたのか、見事に視線が絡み合ってしまった。 「えと……兄ちゃん、どうしたん?」 「百合ちゃんこそ」 「うちは……なんとなく」 「あー、俺も」  なんだろう、仲直りはできたはずなのに、お互いまだどこかぎこちない。  ちなみに裕二は図書委員の仕事で残っているので、帰り道は百合ちゃんと二人きりだ。  なんだかこう、妙に意識してしまう。 『妹と妹みたいなものには大きな隔てりがあると、私は思いますよ』  美鶴に言われた言葉が思い出される。  千秋は『妹』だ。それは間違いない。  百合ちゃんは、千秋ではない。  けれどそれは、『妹』でもないということには繋がらない。  ……どうして、こんなに悩んでいるのだろう。 『ふっ、それは恋だな』  これは比泉の言葉。  そうだと認めてしまえば楽なのかもしれない。  けれど、俺の心はそれを認めようとしない。なぜ? それは、いくら考えてみてもわからなかった。
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