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*6* 明るいあした。
保健室を出た私は、人気のない中庭を歩いた。
いつもは三年生のたまり場になっている中庭も、今日は気軽に足を踏み入れることができた。
私にも、いずれやってくる高校三年生。
楽しみ……な訳ない。
受験の事を考えるだけで、大きなため息が出る。
ふぅ~って、大きなため息をついて
視線の先にある自動販売機にいた春奈と陸に気が付いた。
向こうも私に気付いて、手を振ってくれた。
「春奈ぁ!」
静まり返った学校の中で、二人に会えたのが嬉しくて思わず春奈に抱き着いた。
「ちょっと!暑いから離れてよ、あやめっ!」
「なぁ俺は!?」
陸が、両手を広げて私を迎える準備をした。
……さすがにそれは……。
「春奈たち何やってんの?あ!部活?」
「あたりまえでしょうが。」
呆れた顔で春奈が言う。
「…で、あやめは何やってんの?部活もしてないのに。」
春奈のその問いに答えたくなくて、目を細めて遠くを見てた。
「どーした?」
不思議そうな顔して陸が聞く。
「…ほ……、補習…」
大きな声で言えない……。
「補習って何の?夏期補習はお盆明けだよ?」
すかさず春奈が聞いてくる。
私の頭のデキが残念な事は、二人とも知ってるから馬鹿にされるのを覚悟して、正直に話すことにした。
「…赤点…とった…から、補習……。」
「えっ!?なにで!?」
信じられないって顔をして、春奈が聞く。
「…こくご……」
「えっ!?あれ平均点すげぇ高くなかった?超簡単だったし!」
そう言った陸はすぐに、しまったっていう顔をした。
「…どーせ馬鹿だもん、私。」
「あやめ…。あんた、まぁ馬鹿だとは思ってたけど、ここまでとは……。」
「春奈ひどいっ!」
「あっ!そうだ、あやめ!」
陸が話題を変えた。
「なぁにっ?」
私は少しふて腐れて答えた。
「俺さぁ、あやめん家に電話しても、いっつも留守って言われるんだけど…。夜バイトでも始めた?」
「えー?毎日家にいるけど…?」
少し考えると、その疑問はすぐに解決した。
「あぁ…ごめん。やっぱりあれ陸だったんだね。ごめんねー。お父さんつないでくれないんだよね…。゛あやめはいません。さようなら″って……」
「え?あー…そっか。おやじ…ね。怖いな…。」
「でもハゲてるんだよ。メタボだし…。」
「へぇ…」
リアクションしづらそうな陸。
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