2/35
前へ
/93ページ
次へ
   とりあえず今私はピンチのはずだった。  夕陽の朱ももううっすらとしか残らない、夜に近い森の中で。踏みしめる冬の真っ白な地面は驚くほどに硬い。  震える手で銃の安全装置を外す無機質な音は、草のざわめきや周りを取り囲む奴らの唸り声に吸収されて、どこか私より遠くへと消えていった。 「おい」 「……」 「……おい、虫除け!」 「それやめてって言ってるじゃない!」  背中から聞こえてきた声を一度は無視したけれど、さすがに条件反射で文句を返す。こんな能天気な自分は嫌いじゃない。 「聞こえてんだったら無視すんじゃねえよ!」 「……で、何」  後ろでソードを抜く不気味な金属を擦る音がした。 「足引っ張んなよ」 「わかってる」  一気に冷たくなった後ろの声に私も銃を構え直す。それを悟ったのか唸り声が圧を増した。 「で、ひとつ聞いとくけど」  触れていた背中同士が離れる。間に冬の冷たい空気が潜り込む。 「……なんでおめえがいるのにこいつら寄ってくんだよおぉぉ!」 「どっからどう見てもただの野犬でしょうがでっかいけどさぁぁ!」  叫び声を交わしたと同時、彼の足が地面を蹴る音がした。  
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加