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とりあえず今私はピンチのはずだった。
夕陽の朱ももううっすらとしか残らない、夜に近い森の中で。踏みしめる冬の真っ白な地面は驚くほどに硬い。
震える手で銃の安全装置を外す無機質な音は、草のざわめきや周りを取り囲む奴らの唸り声に吸収されて、どこか私より遠くへと消えていった。
「おい」
「……」
「……おい、虫除け!」
「それやめてって言ってるじゃない!」
背中から聞こえてきた声を一度は無視したけれど、さすがに条件反射で文句を返す。こんな能天気な自分は嫌いじゃない。
「聞こえてんだったら無視すんじゃねえよ!」
「……で、何」
後ろでソードを抜く不気味な金属を擦る音がした。
「足引っ張んなよ」
「わかってる」
一気に冷たくなった後ろの声に私も銃を構え直す。それを悟ったのか唸り声が圧を増した。
「で、ひとつ聞いとくけど」
触れていた背中同士が離れる。間に冬の冷たい空気が潜り込む。
「……なんでおめえがいるのにこいつら寄ってくんだよおぉぉ!」
「どっからどう見てもただの野犬でしょうがでっかいけどさぁぁ!」
叫び声を交わしたと同時、彼の足が地面を蹴る音がした。
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