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 この一番ホールに集められた時点で予想はしていたけど、やはり今夜の招待客は軍人さんのようだ。皆、色にバラつきがあったり形が少し違ったりはしているけど、それでもどことなく同じ団体に所属している者だと一目で分かる、不思議な統一感のある制服を身に付け、飲食しながら仲間同士で談笑したり、あるいは鳥かごのような形の檻に入れられている、カフたち少年娼婦を物色したりしている。  最前列の子たちは、我先にと争うようにして格子のあちら側の男たちに愛想を振りまいていた。アンリなんか、隙間から手を伸ばして相手の顔に触ったりしてる。 ――よくやるなあ……。  いつも通り、カフはなるべく目につかないように身を縮こまらせながら、それでも一応客と目があうと薄っぺらい笑みを顔に貼り付けておいた。  軍人さん、とひとくくりに言っても ここ軍事国家ヴォルフス=ツェントラム――四つの大陸に囲まれた真ん中にある国だから、通称『中央』――の軍がふたつの部隊に分かれているのは有名な話で、幼い頃からあまり外に出されたことがなく、世情に疎いユウレンの子、その中でも最も外の情報に対して疎いと言えるカフですら知っていることだった。  貴族やいいトコのお坊ちゃんが入隊する、家柄審査が厳しい保守的な《狼》と、実力さえあれば身分・出身国に関係なく誰でも入れる《獅子》のニ翼。  詳しいことまではわからないけど、あんまり仲がよくないとか、水面下で対立しているとかたまに小耳に挟む程度だ。  どうやら今日は一番「鳥かご」がよく見えるテーブルに着いている偉そうな年配の軍人さんがここにいる全員を招待したようで、彼の周囲にはしきりに礼を言ったり、グラスが空こうものなら自分が酒を注ごうと目を光らせている人たちでぎらぎらしていた。  こういった「少年遊び」は軍人や地位の高い人たちの中ではポピュラーな娯楽として広く嗜まれており、別段珍しいことではなかった。  そして、娼館に訪れるのは《狼》部隊に所属している軍人さんの割合が高め、というのもカフたちは知っていた。その証拠に、やっぱりというかなんというか、いかにも好色そうな顔をした主催者の胸で狼の顎をかたどった徽章が輝いている。  客がとれなかったらお仕置きが待っているとは言え、それでもやっぱり積極的になれそうにもないカフの横で、セブランも憂鬱そうにため息なんかついたりしていた。
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