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 カフは疑問に思ったが、すぐにその理由に気付く。  その人も、ホールの中にいる軍人さんたちと同じ仕立てのものを身に着けていた。ここからじゃ形までは分からないけど、肩に掛けている短めのケープに徽章らしき小さな輝きも見て取れる。 「ああもう! 少しぐらい良いでしょう、ガタガタ言わないで下さいよすぐ帰りますから!」 ――あ、すごい。振り払った。  細い体のどこにそんな力があるのか、ガードマン二人を押しのけてその人がずかずか中に入ってきた。そして一直線に赤い髪の人の所へ。彼が近付くに連れ、どこか周囲から浮いていると感じてしまう原因がわかった。異国の出身なのか、肌が褐色だ。怒らせた肩の上で、太い縄のように編まれた色素の薄い髪が一緒に上下している。腰に手を当てて、 「何やってんですかこんな所で。ほらっ、帰りますよ!」  仁王立ちで言い放った。すると、それまで石像みたく微動だにしていなかった肩が、ぴくりと反応する。  ようやっと、赤毛の人が顔を上げた。  白すぎない肌の真ん中を、それほど高さはないがそれでも十二分に整った形といえる鼻梁がすっと通っている。なんだか困惑しているような、迷惑しているような。そんな感じで顰められた眉の下に、吸い込まれそうなほど真っ黒い瞳が鎮座しており、口元は一言も言葉を漏らすまいとばかりにきつく引き締められている。  精悍さを保ちながらも男臭さを過度に感じさせない、絶妙なバランスの顔立ちが露わになった。 ――なるほど。アンリ、面食いだからなあ……。  こんな所にくる人にしては見目がいい客を見つけて誘いをかけてみたけど無視されてプライド傷ついてぶち切れ、てとこか。呆れながら納得する。  ていうか、お客サマが今夜の相手を選ぶどころかお店の子の方から誘われても靡かないなんて今時、珍しくお堅い人だ。自分で言うのも気が引けるけど、今日集められたのは普通なら相当お金と地位がないと買えないような子ばっかりなのに。 「……言っておくが、来たくて来たわけじゃない」 「それぐらいわかってます。ったく、嫌なら嫌で断ればいいじゃないですか」 「……すまない、助かった」
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