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険しかった表情をほっとしたように若干緩ませて、抑えた声色で褐色の人にぼそりと呟き、赤毛さんは滑らかな動きで腰をあげた。並ぶと長身さが目立つ。そのまま連れ立ってさっさと出て行こうとするが、
「ちょっと! 逃げるつもり? 何とか言えよ!」
突然の邪魔が入って呆気に取られていたアンリが我に返り、やめときゃいいのに二人の前に立ちふさがった。
「ごめんなさいね、この人クチが利けないんです」
ガードマンとの争いのせいで少しズレた眼鏡を直し、お付きの人? が申し訳なさそうに笑う。
――いや、さっき喋ってたじゃないか。
アンリも同じことを思ったらしく、眉を吊り上げて褐色の人に噛み付いた。
「ばっ……馬鹿にしてんの!?」
「とんでもない。むしろうちの馬鹿上司がお騒がせしてしまって申し訳ないくらいです」
どうやら彼の部下らしいけど、それにしてはずいぶんな言い様だ。赤毛の人が少し不満そうな顔をしたが、それ以上口を開こうとはしなかった。
それではこれで、と軽く会釈し、褐色の人が戸口へ向かう。赤毛の人もそれに続こうとして体の向きを変え……やりとりを眺めていたカフと目があった。射抜かれるような眼差しに少したじろぐ。
「どうかしました?」
「……いや、何でも」
緊張するカフをよそに彼はふい、と視線を逸らし、少し先で待っていた褐色の人の後を追ってそのまま会場を後にした。
……何だったんだ。
二人がいなくなったことで、急激に会場に静けさが戻ってきた。どことなく、白けたような空気が漂う。
嵐みたいな騒ぎを起こして、同じく嵐みたいに去っていった。赤毛の人もそうだけど、迎えに来た人も相当変わった人だ。
ふと、アンリがこちらを向いた。騒ぎをずっと見物していたカフに気付いたその目が、すぅ、と蛇みたいに細められる。
――あ、やばい。
そう思う間もなく、つかつかと目の前に来るなり頬を思い切り引っ叩かれた。
「っ……!」
「邪魔」
いきなり過ぎて身構える間もなかった。容赦のカケラもない平手打ちに、ぐわんと耳鳴りがして一緒視界がスパークする。よろけた所を更に脇に押しやられ、体勢が完全に崩れる。
「ちょ……カフ、大丈夫?」
誰かが駆け寄ってきて、床にぶつかる前に支えてくれた。セブランの声だ。
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