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「う、ん……ありがと。だいじょぶ、びっくりしただけだから」  喋ると痺れるような痛みが走る。……血の味がする。口ん中切ったみたいだ。  足音も荒く立ち去ったアンリの背中を睨みながら、憤慨した様子でセブランが吐き捨てる。 「ひっどい! 完全な八つ当たりじゃん」 「うん……でも、一発殴られただけで済んだんだから、良しと思わなきゃ」 「でも、それにしたって……!」 「いいよ、ほんとにもう大丈夫だから。それに、そうやって怒ってくれるだけで俺はじゅうぶん」  少し強がりながら笑むカフに、セブランが呆れてため息を零した。 「カフってさあ、あれだよね。お人よし」 「そうかも……」  耳が痛い。 「っと、お客サンが呼んでるから」  向こうの方で手招きされているのに気付いて、セブランはじゃね、と言い残して走っていってしまった。めいめいがお気に入りの子を見つけ、一人また一人と個室に移動したせいで、気付けば会場はがらんとし始めている。 ――しょうがない。お仕置きはいやだし、適当に優しそうな人見つけて買ってもらうか。 色々と諦めてカフがため息を零したときだった。  「なんだ、ここに居たのか」  「ひっ」  急に首筋を触られて飛び上がるほど驚いた。振り向くと、さきほどの痩せ親父が好色そうな顔をにやつかせていた。
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