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「酷いねぇ、お客様をほっとくなんて。この店は一体どんな教育をしてるんだい?」 「ごめんなさい……」 ――最悪だ。  カフを個室に引きずり込んでからも尚、ねちねちと嫌味たっぷりに責める男――シザーと名乗った――にうんざりしながらも、うなだれてしょんぼりと反省している様子を装ってみせる。 俯き加減のまま、前髪の隙間からちらりとシザーの顔を見ると案の定その頬がでれっとだらしなく緩む。ちょろいなあ、とカフが思った時だった。 「ちょっ……」  いきなり両肩を掴まれて、部屋の奥の方へ半ば突き飛ばすように押し込まれる。 「ああ、堪らないよ君……!」  ハァハァと息を荒げながら、シザーが迫ってきた。 「ま、待って!」  使い古した食用油のような、中年男独特の脂っぽいにおいに顔をしかめる。 ――ていうか、痛いっ!  カフの言葉が聞こえた様子もなく、シザーは両手を少年の肩から腕に移動させる。節くれ立った指がカフの細い手首に食い込んで、彼に短く悲鳴を上げさせた。 「い、たいってばっ……うわっ!」  ぐ、と体重をかけられて後ろにたたらを踏む。バランスを崩した所を更に押されて、カフは後ろに倒れこんだ。  スプリングの利いたベッドが男の体重ごと、カフの背中をぼふん、と受け止めた。  ぎりぎりまで薄暗く絞られたピンクライトが天井からぶら下がっている。その仄かな照明を遮って、シザーがぬっと覆いかぶさってきた。 「綺麗な衣装だねぇ」  元々あまり上品とは言えない顔立ちに追い討ちをかける下品なニヤニヤ笑いを浮かべて、極東の島国、倭国のものを模した着物の襟元をはだけに掛かる。  反射的に顔を背けたカフの頬に汗で湿った手のひらが添えられ、乱暴に正面を向かせる。せめてもの抵抗で瞑った瞼に、何やら生温かくぬめっているものが触れた。  一瞬遅れて、それが何なのか理解したカフの背中に怖気が走る。 ――かお、顔舐められたっ……!  心の中で必死にえんがちょを唱えるカフの腰が軽い圧迫感から開放された。カフの着物を中々脱がせられないシザーがようやく帯代わりのベルトに気付いたのだった。引きちぎるみたいに荒っぽい手つきでバックルを外して放り投げる。それが床に落ちる音がするより早く、焦る指先が着物の襟元にかけられて、乱暴に左右に開いた。  シザーの唇から、ほぅ、とため息が零れた。
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