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「う……」
「カフ、ねえカフったら」
軽く肩を揺さぶられて、ゆっくりと少年の意識が浮上した。
――なんだろ、すっごく体がだるい。
ぼやけた視界を艶やかな金色がブロックしている。
「ちょっとカフ、大丈夫?」
「うわあっ」
深い空色のきれいな瞳がぱちぱちと瞬きをした。驚くカフの琥珀色の瞳と目が合うと、嬉しそうににっこりと微笑む。
「おはよう、カフ。もう10時だよ」
「う、ん……おはよ、ティ」
徐々に視界と記憶がクリアになってくる。昨夜のことを思い出したカフはげんなりしながら身を起こそうとして、下腹部にずきんと鋭い痛みが走り顔を顰めた。
「いったぁ……」
鈍痛を訴える腰を労わりながらベッドに起き上がるカフの背にティの手が添えられ、手伝ってくれる。
「うわぁ」
情事の痕跡とは別に、シーツに転々と残る茶色く乾いてしまった血の跡にティが口元を抑えた。そして、そのきらきらと光る瞳でカフを覗き込む。その動きに合わせて、カチューシャの飾りがしゃらんと音を立てる。
「ねぇ、酷くされたの?」
「え、うん……」
「痛かった?」
こくりと頷くと、ティの顔が哀れみでいっぱいになる。
「そっかぁ……。かわいそうなカフ。もう大丈夫だよ、あの人帰っちゃったから」
柔らかくて暖かな腕に抱きしめられ、髪の毛を撫でられた。ふわりと良い匂いがカフの鼻をくすぐる。それが気持ちよくて瞳を閉じながら、カフは毎度のことをもごもご訊ねた。
「ていうかティ、いつもいいの?」
「んー? 何が?」
「勝手にこんなとこ来たりして。怒られない?」
「あはは、大丈夫だよー。僕は絶対怒られないから」
「そ、そっか」
カフを開放して屈託なく笑う。
ティ。
肩より少し長めの金髪と、鮮やかな深みのあるネイビー・ブルーの瞳がとても綺麗な『特別』な子。身体が弱いためか、お店のコたちと違ってお客の相手をさせられることはない。それなのにいつも綺麗な服を着て、左手首には宝石をあしらった腕時計を光らせている。少年たちの中では数少ない、正確な『外の時間』を知っている存在だ。
ティは何故かいつもカフによくしてくれ、仕事明けで気分がどん底の彼を励ましに来ることも度々だ。
ちょうど、今みたいに。たまにほっといてほしいと感じるタイミングで訪ねられることもあるけど、それでも数え切れないぐらいティに救われてきたのだ。
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