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「あ、ごめんね。そろそろ行かなきゃ」
ドアの方に目を遣り、ティが申し訳なさそうに、待たせてるから、と笑う。
じゃあね、と手を振りながらあけたドアの隙間から、ずらりと並んで待っている白装束の男たちの姿が見えた。彼らはティの身の回りのことを全て任されており、着替えから給仕、果ては入浴まで世話をしているらしかった。あくまで噂話だから、どこまで本当なのかは知らないけど。
天真爛漫なティとは対照的に、その後ろを無表情でぞろぞろと整列し従属する彼らの姿は少し不気味だ。額から顎まで、顔の全面を覆う無地の仮面を着け、感情の読み取れない様子に、何考えてんだろう、とカフはいつも感じずにはいられない。
唐突に現れたティがスコールのように立ち去った後、カフは一人ぽつんと取り残された。
個室のみで構成されているこのフロアは、廊下もすでにしんと静まり返っていた。自分以外の人間の気配が全くしない。他のコたちは、もうとっくに仕事を終えて各々の部屋に引き上げていった後なのだろう。
ひとりきりになったカフは、改めて無残に荒れた部屋を見渡し、吐き捨てるかのようにため息をもらした。
――お片づけしなくちゃ。
どんなに部屋が汚れていようと、綺麗に後始末をするまでがカフたち少年娼婦の仕事なのだ。 痛む身体に鞭打って起き上がり、備え付けのシャワーを浴びてから、真っ白なバスローブを身に纏い掃除にとりかかる。
客との一夜の痕を抹消できるこの時が、カフにとって唯一無心になれる瞬間だった。
一仕事終えたカフが自室のベッドに身を投げ出したのは昼食の時間が過ぎてしまった後だった。毎食、部屋に運ばれてくる食器はとっくに下げられてしまっている。空腹感を感じないわけではないけど、もし食べたとしてもだいぶ残してしまいそうだ。
少し薬臭い感じの洗剤の匂いがする枕に顔を埋めたところで、隣の部屋が妙に騒がしいことに気付いた。複数の話し声の合間に、時折はしゃいだ笑い声も混じっている。
疲れているとは言え、体を動かしたせいですっかり目が覚めてしまっているカフは再び起き出した。
セブランの部屋のドアをノックすると、ぴたりと会話が止んだ。そして、「どうぞー?」とやや緊張感を含んだ声が返ってくる。 自分と同じ間取りの室内を覗いてみると、セブランと彼の友人たちが集まって小さなテーブルを囲んでいた。
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