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「そうだねぇ。カフ殴られちゃ セブランの手の中で握りつぶされたビスケットを目の当たりにしたユーリが少し怯えながら身を引いた。
「そういえばカフは近くで見てたんだろ? あの赤毛のヤツ」
「え?」
急に話を振られて、慌てて顔を上げる。好奇心の篭った三人分の眼差しを一度に受けて少したじろいでしまった。
「どんな感じの人だったの? 結局何もしないで帰っちゃったんだよね?」
「どうって……」
真っ先に思い出されたのが、あの目立つ髪の色だった。立ち上がったときに左右に揺れる様子が、昔図鑑でみたライオンの尻尾みたいだったのが印象的で。
アンリの誘いをずっと無視して俯いたし、こういう遊びそのものがあんまり好きな人じゃないのかも。
そして、あの真っ黒い目。去り際に、視線がかち合ったことを思い出した。一瞬のことで、すぐにあちらから逸らされてしまったけど……妙に心がざわついたのを覚えている。
今もだ。思い出しただけなのに、なんか……。
「ちょっと……カフ、ほんとに大丈夫?」
肩を軽く揺さぶられて、現実に引き戻された。はっとして周りをみると、セブランをはじめリックもユーリも、怪訝そうな顔をしてこちらに注目していた。
「あ……うん。ごめん、何でもないよ。ちょっとお水……」
水差しからコップに新しく水を注ごうと、軽く椅子から腰を浮かせる。
「っ……!」
ずきんと、鋭い痛みが走った。足腰から力が抜ける。視界が揺れて……まずい、転ぶ。
「うわあっ!」
どすん、と柔らかいものに倒れこんでしまう。セブランが驚きの声を上げつつも、そのまま踏ん張って支えてくれた。
「どっ……どこが大丈夫なのさ! 二人とも今日はもう帰って、僕、カフ部屋に連れてくからっ」
「う、うん」
「わかった。カフ、お大事に」
ずるずると引きずられるようにして自室まで連れて来られた。両腕が塞がっているセブランがドアを器用に足で開け、ぐったりしているカフをベッドにゆっくり横たわらせる。
「もー……」
「ごめんね、セブラン」
折角みんなで楽しく喋ってたのに、ぶち壊しにしてしまった。申し訳なくて、目を伏せるカフにセブランがぷりぷりする。
「僕が怒ってるのはそういうことじゃないのっ。きついの分かってたんならちゃんと休まなきゃダメじゃないのさ! カフはいつも自分のこと気にしなさすぎ!」
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