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 荒っぽく揺さぶられて、カフの意識が急上昇した。 「うー……なにぃ……?」  寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。幸い、腰の痛みはもう完全に消えていた。部屋の電気は灯されておらず、廊下から帯状の光が差し込んできている。それを背に、黒い人影が浮かび上がっていた。 「ご指名だ。すぐに身支度するように」  それだけ言い残すと、仮面の神官はさっさと踵を返し、ドアを閉めた。カフがぽかんと呆気に取られていると、こつこつと、急かすように扉を叩かれる。 「あっ……は、はいっ」  慌てて返事をして飛び起き、部屋着を脱ぎ捨てる。おフロは……寝る直前に入ったからいっか。テーブルの上に用意されていた仕事着を見つけてもたもたと袖を通し、ベルトを締める。髪の毛を手早く梳かして後頭部で纏めながら部屋を飛び出した。  廊下の明るさに目を瞬かせるカフの身だしなみをチェックしてから、神官が先導して行く。言われなくともその後を小走りになって着いていきながら、カフは寝起きでまだぼんやりとしている頭を必死で回転させる。  ――ご指名? てことは個人のお客サンかな。ていうか今何時なんだろ。 「カフ!?」  背後から素っ頓狂な声がして、ぱたぱたと寝巻きのセブランが走って追いついてきた。 「ちょっと……まさか今から仕事!?」 「あ、うん。そうみたい」 「そうみたいって。体、もう平気なの?」  きびきびと大またで歩いていく神官との距離をちらちら気にしながら、信じられないと目を見張るセブランに応える。 「大丈夫だよ。俺いつもケガなおるの早いし」 「うー……無理、しないでよね」  それでも不満げに唇を尖らせるセブランに笑いかけ、急かされるまま神官と一緒にエレベーターに乗り込む。金属製の籠が音を立てて上昇していき、心配そうに見上げる親友の顔が足元に消えていった。 「やあ、遅かったねえ」  椅子に座ったまま、カマキリみたいな顔の男がにやりと笑った。入り口で立ち尽くすカフの背中が神官の手で背後からさりげなく押され、ドアが閉められる。きっちり、外から鍵も掛けられた。扉を開ける鍵は客に渡されている。客が満足するまで、この部屋から出ることはできないのだ。  これで自分の仕事は終わり、とばかりに遠ざかっていく足音。それを耳にしながら、カフは座り込んでしまいたくなった。
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