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――ピピピピピピピ
耳障りな合成音がすぐ傍で喚き立てている。昨日はわりと早く客が満足してくれたお陰で久しぶりにたっぷり睡眠時間が取れたはずなのに、身体が一向に起きようとしてくれない。
睡魔にがんばって抗ってみようか、このまま本能のままに流されてみようか考えている間に、電子音が引っかかりながら掠れて止まった。
これ幸いとばかりに意識が温かな泥に似た惰眠の中へ吸い込まれるように沈んでいく。自身の体温を存分に閉じ込めたぬくぬくの布団の中でもう一度夢の世界へ逃げ込もうとした時、ぴたりと背中をくっつけていた薄い壁が、向こう側からの衝撃で鈍く震えた。
「ちょっとぉ、いい加減それとめてよね! いつまで寝てるのさ!」
壁向こうからきーきー怒る少年の声がして、再び壁からベッドに振動が伝わる。
――あ、また蹴った。
「うー……うるさいなあ。もう起きてるもん」
ようやくカフは渋々と身体を起こした。空調によって室温は適度に保たれているものの、ぬくぬくの羽根布団から抜け出すと流石に肌寒い。
枕元で毎度ムダな努力をしている置時計のアラーム機能を解除して、お返しに壁を拳でごつんと叩き返す。
「うるさいのはカフの方! 毎回毎回、勘弁して欲しいんだけど……
ちょっと、聞いてんの?」
ふわぁ、と大きく欠伸をして、続きの文句は聴覚からシャットアウトした。
毎日のカフの目覚めの悪さに不平不満を垂れ流し続けている壁から離れ、寝癖で絡まった髪に手串を通す。昨日どこに置いたか分からないブラシを探すついでに、寝起きの軽い運動のつもりで狭い部屋の中を小さな円を描いてぐるぐると歩き回った。
少年たちがそれぞれ与えられている部屋には窓がつけられていないため、カフに今が昼か夜なのかを知る手立てはない。時計を持っていても、時間を合わせるときは他の子たちが所持している物の時間を見せてもらい(大体バラバラだ)、間を取って適当に針を回す。そもそも、見せてもらった時計の時間が本当に外の世界とシンクロしているのかも分からないのだが。
とりあえず、時計は夜の九時過ぎを指していた。となると、自分は丸々半日ほど寝ていたことになる。
起こしてくれる人がいないと際限なしに寝てしまうのがカフの悪い癖だった。乱暴にたたき起こしてくれる隣人がいてくれるお陰で、毎晩のお勤めには辛うじて遅刻せずに済んでいるけど。
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