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 「よっと……」  ブラシはベッドとタンスの間の隙間に落ち込んでいた。同年代の少年と比べると華奢さが目立つ腕を伸ばして、目的のものを拾い上げる。使いっぱなしで絡んだままになっている長い髪の毛を取り払いながら、カフは壁のあちら側向けて声を大きくした。  「あのさ、今日のお勤めってセブランも出る?」  ややあって、呆れたような声で返事が返ってきた。  「はぁ? 何寝ぼけてんのさ、……今日はお偉いさんたちが来る日でしょ。この階にいるコは全員出るって、この前言われたじゃん!」  「あっ……」  そういえば、そうだった。  「まーた集会中に半分寝てたでしょ……ほんっと、僕がいなかったらカフなんてあっという間にお仕置き部屋行きだよ!」  「わかってるよ。感謝してるって」  「とにかく、僕もういくからねー」  「え、ちょっと待ってよ! 俺もすぐ行くから待ってて!」  悠長にブラシの掃除なんてやってる場合じゃなかった。慌てて寝巻きを脱ぎ捨て、タンスから普段着を引っ張り出して袖を通す。隣の部屋のドアが閉じ、軽い足音が遠ざかっていく音を聞いて、少ない家具がぎゅうぎゅうに押し込められている部屋から転びそうになりながら飛び出した。  「おそーい」  ワンフロアで共用になっている洗面所であらかた身支度を整えて、待ち構えていた仮面の神官たちの手で仕事着に押し込められて、控え室についたのは遅刻ギリギリの時間だった。  むくれながらも、いつもカフの立ち位置をしっかり確保してくれているセブランはなんだっけ、最近お客さんに流行っているらしい「つんでれ」とかいう気質なのかもしれない。 顔の前で軽く手を合わせて謝りながら、ひな壇ごしらえの通称『お立ち台』にのぼり、セブランの隣に滑り込む。ここは丁度真ん中あたりの列で、カフみたいにお仕置きされたくはないけど仕事は好きじゃない、そんな消極的な子たちに人気の場所だ。逆に、最後尾なんかは調達されたばっかりで慣れていない新人か、あるいは「お仕置き」が病み付きになってしまった変態どもが溜まっている。 彼らのどろっと淀んだ空気にカフはこっそり身震いした。仕事着から露出している肩が余計寒い。
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