日常への珍入者

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学園都市の中にはいくつもの寮が存在する。総人口の8割が学生という街なのでほとんどが学生寮で、日中はほぼ空き家になる。今日も夏休み初日という事で補習に出たり遊びに行ったりで昼過ぎだが人の気配はない。 そんな学生寮の一角。部屋のベッドの布団がもぞもぞと動く。そこから細い手が伸び、近くに置いてあった置時計を呑み込む。しばらくして布団が縦長に伸びて取り払われた。出てきたのは黒よりも若干茶に近い髪をした少女。今起きたのか目は虚ろで髪はボサボサだ。少女は正座を崩した座り方でしばらくボーッとしていた後、お腹の虫を鳴らした。 「…ご飯、食べよ…。」 立ち上がりキッチンに向かう。コンロにやかんを置いて火にかける。次に引き出しからカップ麺を取り出しふたをはがす。 昨日、この辺りで大きな雷が落ちて停電になったが、少女の主食はインスタントものなので大きな被害はない。 ピーッという音を合図に火を止める。やかんのお湯を入れふたをして3分。テーブルに運びふたを完全にはがす。 「いただきます。」 一度手を合わせて食べ始める。色々なカップ麺を食べているがやはりコレに落ち着く。しんぷるいずべすと、なのだ。 ピロリロ、ピロリロ、 「………、………、ズルズル。」 ピロリロ、ピロリロ、 「………、………、ズルズル。」 ピロリロ、ピロリロ、 「………ごちそうさまでした。」 食べ終わる。少女はさっきからベッドでずっと鳴り続けている携帯のディスプレイを見て通話ボタンを押す。 「おはよう、雲母(きらら)。」 「はい、雲母です。比良坂(ひらさか)高校1年、里中雲母です。」 女の子の明朗な声が耳に届いた。
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