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「――お疲れですか?」
不意に聞こえた声にハッとし視線を向ければ、扉の前に松田が立っていた。いつからそこに立っていたのかと、驚き目を見開いていると、
「…一応ノックと声をかけたのですが、気付きませんでした?」
「あ、あぁ……少し考え事してたから」
「――あいつの事ですか?」
「…っ」
核心を突かれ僕は言葉を詰まらせる。いくら長い付き合いだとしても、こうも容易く心の内を見透かす松田を時々怖いと感じてしまう。
「それより松田――」
この話に触れてほしくなくて、僕は話題を変える。そうすれば松田も何か察したのか僕の次の言葉を待つ体勢に入る。
「次に入ってくる教論の情報…何かわかった?」
僕の言葉に松田は手に持っていた資料を数枚パラパラと捲り、ある所で手を止め怪訝な表情を浮かべながら僕に視線を戻す。
「あまり評判は良くないみたいですよ。…気を付けるべきかと」
「そうか…」
そして僕と松田の間に沈黙が訪れる。その沈黙を破るかのように大きな窓にポツ、ポツと雨粒が叩き始める。
「…また雨が降ってきたな」
「そうですね…、迎えの車もう校門前におりますが」
「あぁ…じゃあ帰ろうか」
――校舎を出るまで特に僕と松田の間に会話はなく、聞こえてくるのは地面を容赦なく叩きつける雨の音だけが虚しく響き渡るだけだった。
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