新しい養護教諭

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あれから特に変わったこともなく、平穏な毎日を過ごしていた。上条とは廊下で擦れ違うことがあっても、視線を合わせることもないし、ましてや話すこともしない。 昼休み、何気なく廊下を歩いていると”保健室”の文字に目が留まった。 (…暇だしな) そう思い、保健室の扉を開けば見慣れた顔が目に映る。 「あら、柳本君!」 ニコッとほほ笑みながら俺の姿を見た菜月先生が俺の名を呼ぶ。俺は少し微笑み返し椅子へと腰を下ろす。 「顔の傷もほとんど治ったみたいね」 俺の顔を見つめながら優しく微笑む先生。しかし、俺はそんな先生に視線を向けずにある一点に視線を向けていた。 「…菜月ちゃん、これどーゆうこと?」 先生の机は前よりもさっぱりしており、机の端には私物を詰めていた途中なのか開いた段ボールが置かれている。 俺の視線の先に気付いた先生は、眉を下げながら少し寂しげな声色で、 「今日で…ここに来るのも最後なの」 と悲しげな表情をしながら言った。俺は驚き先生の目を見つめれば、俺の視線と合わせながらまたニコッとほほ笑む先生。 「だから、最後にまた柳本君とお話しできて嬉しかったわ」 「…なんで早く言ってくれなかったんだ?今日たまたま俺がここに来たから良かったものの…もし来なかったら――」 「何言ってるの!来てくれたんだから結果オーライじゃない!」
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