荒れた毎日

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 その声は俺の後ろか聞こえた。  崎本は降り下ろした拳を、俺の目の前寸前で止め、声のする方へと視線を向ける。  そしてその声の主を捉えようと目を細める。ここからでは大通りの光が強すぎて、声の主は逆光で姿しか捉えることができない。  チッと小さく崎本は舌打ちしながら、俺から拳を離し離れていく。  崎本が離れていくことに少し胸を撫で下ろしながらも、崎本から目を離さず見据える。  崎本は、呻き倒れこんでいる男たちを抱き起こし始めていく。    後ろから聞こえた声の主に再度目をやれば、その姿から少し小太り気味の中年男性かと想像がつく。その人はその路地から消え、声を張り上げている。どうやら人を呼んでいるらしい。 (…まずい。このまま警察が来たらややこしいことになる)  崎本達に視線を戻せば、男たちに肩を貸しながら、中年男性がいる道の反対側の通路から去っていく途中だった。 「――チッ…覚えてろよ」  崎本はそう俺に叫ぶと、俺の視界から姿を消した。  静かになった路地を見渡せば、所々に残った血だけが染みを作っていた。  小さく息を吐けば、遠くの方からパトカーのサイレンが鳴り響き、こちらに近づいてきているのか、その音はどんどんと大きさを増していく。 「――っ…いてぇ…」  少し体を動かしただけで鋭い痛みが全身を襲う。しかしここから早く移動しなければ、警察が来てしまう。動かない体にムチを打ちながら必死に、自宅へと足を進めた。
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