想い想われ

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―――…  「…松田」  柳本の姿が見えなくなった所で、物音しない廊下に向け一人の名前を呼ぶ。そうすれば、キュッと廊下に掠る上靴の音と共に見せる松田の姿。 「遅くなるから先に帰っても良いと言っただろう?」 「いえ、上条さんより先に帰るわけにはいきませんよ」  松田の言葉に僕は苦笑し、生徒会室へと足を戻す。それに続いた松田は、机の上に置いてあった冷めた紅茶を捨て、また新しい紅茶を淹れ始める。  コトッと、音を立て湯気を立ち上らせた紅茶が僕の前に置かれる。それを一口飲み、先ほど手にした体育祭の資料に目を通す。 「――どうして言わなかったのですか」  松田の落ち着きある声が、部屋に響く。 「何が?」  僕は資料から松田へと視線を移す。松田は表情を変えずに言葉を続けた。 「あいつ…柳本のことですよ」  ここでようやく松田の言いたいことを理解する。 「なんだ――…聞いていたのか?」 「聞いていたもなにも、廊下まで聞こえていましたから。…貴方も素直になればいいのですよ」 「…何言ってるの、松田」
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