誘惑そしてお仕置き

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その言葉を言った先生は凛としていて、もう”母親”になる覚悟を決めた顔をしていた。 そして先生はポツリ、ポツリと本当は”父親”になる人のことを話してくれた。 ――何年も付き合った人、とても優しくて大切に思っていたこと、そして子供ができたこと、それを話すと”おろせ”と言われたこと、”産みたい”と答えたら別れを告げられたこと。 俺は顔も知らないそいつを 許せなかった。どうしてそんな無責任なことを言う奴なんだろうって。 長年付き合っていたのに、先生をどんな風に思っていたんだろうって。 ――俺が言うのもなんだけど、たとえ姿が見えなくても命は命なんだから。大切にしていくべきじゃないのかなって思う。 「…じゃあ、もうここ辞めるのか?」 俺が不意に思ったことを尋ねると、先生は絆創膏を傷口に貼りながら頷いた。 「ここの学校は大好きで、柳本君とお話するのも好きよ…だけど産まれてくる子に専念したいなって…思っているの」 先生が決めたことに俺は何も言えないけど、寂しくなるなって思った。 俺が塞ぎこんでいると、先生は俺の肩をポンッと叩き、 「さ、これでもう大丈夫ね。もう喧嘩しちゃだめよ?」
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