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ある日君はいなくなった。
帰り道、横断歩道を渡っているところを暴走した車に轢かれて死んでしまった。丁度一週間前の事だ。
お葬式では多くの人が悲しんでいた。残された家族、知らないおばさんたち、学校の先生、そしてたくさんのクラスメート。
僕もその中の一人だった。
パァン、と音がする。空で弾けた花火が赤い光の花を咲かし、黒塗りの味気ない世界を華やかに彩る。
遠くのほうから、様々な声が聞こえてきた。子供の声、おじさんの声、若い女の子の声。何を言ってるのかは分からなかったけど、どの声も楽しそうだった。
そう、今日は花火大会。みんなで浮かれて騒いで、退屈な日常を特別にする日。
この日僕は、君に告白する予定だった。だけど君は――
また、夜空に花火が散る。その美しさは今日という一日の特別さを象徴するのにふさわしいもので、少しでも近くで見ようと花火の打ち上げ場所に近い川岸にはたくさんの人がひしめいていた。
その様子を僕は遠くから見ていた。一人で、孤独に。
ふと思い浮かんできたのは君との思い出。休み時間に楽しく話した事、どっちがテストの点数が高いかと争った事、『もう付き合っちゃいなよ』と冷やかされ、二人照れあった事。そして――最後に聞いた『また明日』の言葉。
気付いたら僕は泣いていた。違う、僕は君の死を惜しみに来たんじゃない。この気持ちに、別れを告げるためにここに来たんだ。
ポケットから紙を取り出す。前に君が『ラブレターって、古風で何かいいよね』と言っていたのを思い出して書き始め、一ヶ月かけてようやく完成させた、僕の想いを綴ったラブレター。
それを僕は少しずつ折っていく。そして出来上がったのは、紙飛行機。
それを手に持ち、上へと狙いを定める。あとは、飛ばすだけ。
この紙飛行機とともに、君への気持ちを。
だけどこの想いを諦めきれない僕は、少しだけ願いを込めた。
もしも死後の世界があるのなら。そこに君がいるのなら。
この紙飛行機がそこに届きますように。
そんな淡い希望を乗せて、僕は紙飛行機を飛ばした。
紙飛行機は驚くほど高く、そして遠くへと進んでいく。
そうだ、行け。もっと飛べ。
風に乗って、空を駆けて。
君に届け、この想い。
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