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銀杏が鮮やかな黄色に染まっている昼下がりの大通り
由布子は両親とドライブをしていた
行き先のはっきりしない暇つぶしのドライブ
でも季節の移り変わりは確かに由布子と両親の目を紅葉と言う形で楽しませていた
「私、秋が一番好きだよ!寂しく感じてる人もいるみたいだけど私はそんな秋でも大好き」
由布子は色づいた街路樹を瞳に映しキラキラさせていた
「由布子は秋生まれだからな。だから秋が好きなんじゃないのか」父のそんな何気ない会話に母もうなづいていた
「結構道路混んでるわね。渋滞しない内に帰宅しましょうか」母が言う
それは一瞬の出来事だった
渋滞が始まった車の列の最後尾にトラックが突っ込んできた
その衝撃は渋滞の列を乱し何台かの車を対向車線まではみ出させるほどの事故だった
鮮やかな黄色に染まった銀杏の景色が由布子の瞳の中でグルグル回っていた
『パパ…ママ…』逆さまになった車内で由布子は気を失った
運転席に座る父と助手席の母の鼓動が音を無くした時、やっと遠くの方から救急車がやってきた
事故の様子を野次馬たちが見ている
「こりゃひどい」
「きゃ!あそこの人死んでるんじゃない?可哀相」
ざわめきたつ昼下がりの街
銀杏の木は鮮やかな黄色をしていた
秋真っ只中の出来事だった
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